1982年、浅間山が10年ぶりに噴火したふもとの山荘。若き建築家「ぼく」が入所した村井設計事務所は、夏のあいだだけ軽井沢の別荘地に事務所機能を移転するのが慣わしだった。所長は大戦前のアメリカで名匠ライトに師事した寡黙な老建築家。秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向けて佳境を迎える仕事、そして美しい風景と、洗練されている都会で密かに進む仕事や人間関係、そして静かな恋――火山のふもとで、夏に刻まれた物語。
この小説を読み終えて、私の頭に浮かんだのは「ボレロ」という言葉だった。あるいは
「カノン」。同じメロディーというかモチーフが繰り返されながら少しずつ豊かに積み重なっていくあの曲のように、この物語は静かに、しかし確実に読者の心に染み込んでいく。浅間山麓と青山を舞台に、美しいタペストリーが一本一本の糸で編まれていくような感覚だ。あるいは、上等で重層な味わいを抱いたスープを楽しむような感覚。
「バベットの晩餐会」で登場するディナーを味わうような。
劇的な事件があるわけではない。それでもページをめくるたびに、不思議と不安になり、安堵し、ドキドキし、驚く。
この小説は、何気ないしかし純粋で力強い素材を時間で調理した料理が絶妙のタイミングで供されるフルコースを味わわせてくれる、稀有な一冊だ。
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